2つの散布図があります。左は、10個の点がてんでばらばらに散らばったデータ。右は、放物線のように点がきれいに並び、xが決まればyもぴたっと決まる、かなり強い規則のあるデータです。ところが、この2つの散布図、それぞれ相関係数を計算すると——どちらも、ちょうどゼロになります。
相関係数という数字だけを見ていたら、この2枚の絵は絶対に見分けがつきません。1つの分布を1つの数字に畳むと何かが落ちるように、2つの変数の「関係」を1つの数字に畳むときも、また何かが必ず落ちます。この記事では、相関係数が何を見ていて、何を捨てているのかを解き明かします。
※以下は自分の言葉で再構成した勉強ノートです。図はすべて自作の再構成です。
1. 偏差の積は、賛成か反対かの一票
共分散の計算では、各点が一票を投じています。5人分のデータ(x=1,2,3,4,5、y=4,5,6,8,7)で、平均(x=3, y=6)のところに十字を引くと、5つの点はこの十字を軸に4つの区画に分かれます。
各点の、xの偏差とyの偏差を掛け合わせると、4、1、0、2、2——全部プラスになります。これは偶然ではありません。xの偏差とyの偏差の符号が揃っている点(両方プラス、または両方マイナス)は、掛けると必ずプラスになります。プラスになった点は「xとyは同じ向きに動く」に賛成の一票、マイナスになった点は反対の一票です。偏差の積というのは、その1点が賛成か反対かを表す一票そのものなのです。
この5つの票を集計すると、合計9。これを人数5から1を引いた4で割ると、共分散は2.25になります(この「個数から1を引く」は前回の分散の計算と同じ理屈です)。
2. この投票は、一人一票ではない
投票なら1人1票のはずですが、そこが違います。5人の積(4、1、0、2、2)は、ぜんぶ同じ大きさではありません。平均のど真ん中に座った点は、偏差が0なので積も0——票を持っていません。一方、平均から最も遠い点(x=1, y=4)は、積が4で、5人の中でいちばん重い一票を持っています。
票の大きさは、xのズレとyのズレを掛け合わせた大きさで決まります。平均から遠い点ほど、重い票を持つのです。これは、分布を1つの数字に畳むとき「2乗すると遠い点ほど重く効く」という前回の話と、まったく同じ構造です。あれは1つの変数の中での話でしたが、今日は2つの変数の掛け算という形で、同じことが起きています。共分散も、このあと出てくる相関係数も、多数決ではなく加重投票なのです。
3. 票の単位をそろえる
共分散が大きいほど関係が強い、というわけではありません。ここに罠があります。先ほどのyの値をすべて10倍すると、共分散も2.25から22.5に、ちょうど10倍になります。xとyの関係そのものは何も変わっていないのに、数字だけ10倍になるのです。理由は単純で、共分散は生の値どうしの積の平均だから、目盛りを10倍にすれば積もそのまま10倍伸びます。
共分散には単位が残っています。身長と体重の共分散なら「センチ・キログラム」という奇妙な単位が付き、単位が残る数字は大きさを比べられません。そこで、割って単位を消します。xとyを、それぞれ標準化(平均を引いて標準偏差で割る、いわば自分専用のシーソーと定規を作る操作)してから掛けて平均を取ったもの——それが相関係数です。実務上は、先に標準化してから掛ける代わりに、共分散を2つの標準偏差の積で割るという近道を使いますが、やっていることはまったく同じです。
先ほどの例で計算すると、xとyの分散はともに2.5、標準偏差はともに√2.5で、掛け合わせると2.5に戻ります。共分散2.25をこの2.5で割ると、相関係数は0.9です。
ここで、よくある勘違いを潰しておきます。相関係数は単位を消した数字なので、「xが1増えるとyがいくつ動くか」という量(傾き)ではありません。単位を持たない数字が、「1単位あたりの変化量」を表せるはずがないのです。
4. なぜ天井が1なのか
相関係数がマイナス1からプラス1の間に収まるのは、決めたわけではなく、標準化の副産物として自動的にそうなります。標準化した値(z得点)は、定義上、2乗の平均がちょうど1です。xを標準化した数とyを標準化した数が完全に重なる場合、各点の積はxの2乗になり、それを平均するとちょうど1になります。逆に、鏡写し(符号が逆)になる場合は、積の平均はマイナス1になります。
「1を超えないこと」を確かめるには、標準化したxとyの差を各点で2乗して平均します。これはどうやってもゼロ以上にしかなりません。そしてこの量を展開すると、2から相関係数の2倍を引いたものになります(xの2乗の平均が1、yの2乗の平均も1だから)。差を取ってゼロ以上、というだけで、相関係数が1以下だという天井が出てきます。同じことを足し算でやると、床のマイナス1が出ます。決めたのではなく、そうならざるを得ない、ということです。
さらに、相関係数には単位変換に対する強い性質があります。xを2倍して7を足し、yを10倍して3を引くと、共分散は2.25から45.0(20倍)に化けますが、相関係数は0.9のまま、まったく動きません。標準化は「平均を引いて標準偏差で割る」操作なので、平行移動(下駄)は平均を引く段階で消え、倍率は標準偏差で割る段階で消えます。共分散はこの単位をそろえる操作をする前の数字なので、掛けた倍率がそのまま乗ってしまう——ここの非対称が、試験でいちばん狙われるところです。
5. 0.7の散布図は、どう見えるか
0.7という数字は、実際に絵にするとどのくらいなのでしょうか。相関係数がおよそ0.2、0.5、0.7、0.9の散布図を4枚並べると、0.2はほぼ雲のようにばらばら、0.5でようやく右肩上がりの傾きが見え始め、0.7になると誰が見てもはっきり右上がり、0.9になると点が細い帯のように並びます。
日常の言葉で言う「半分くらい関係ある」という感覚と、0.5の見た目はかなりズレます。言われれば見える、でも言われなければ見えない、そのくらいの弱さです。相関係数が大きいというのは、重い票の向きがどれだけ揃っているかということ——点が1本の直線にどれだけ乗っているかを目で測るのと同じことをしています。だから試験は、数値を計算させるより、絵と数字を対応させる問題を繰り返し出してきます。
6. ゼロは、無関係の証明ではない
冒頭の放物線のデータ(y=x²)で確かめると、相関係数はちょうど0になります。yはxから完全に決まっているのに、です。xが極端な値(マイナス2や2)の点は、それぞれ重い反対票・賛成票を持ちますが、大きさが同じで符号だけ逆なので相殺してゼロになります。真ん中の点はまた票を持っていません。
相関係数は、「右上がりの直線」という1本の物差しに当てた影しか見ていません。曲線は、その影に写らないのです。だから、ゼロは「無関係」という意味だけでなく、「賛成票と反対票が相殺した」という意味でもありえます。試験がわざわざ散布図を見せてくるのは、数字だけでは形が復元できないからです。
7. たった一人が、議決をひっくり返す
点が1つ増えたくらいで相関係数はそんなに動かない、と思われがちですが、動きます。しかも大きく。10個の点(平均x=4, y=4)で相関係数がぴったりゼロのデータに、極端に遠い点(x=30, y=30)を1つだけ足すと、相関係数は0.95くらいまで跳ね上がります。足した点は平均から極端に遠いので、極端に重い一票を持ちます。10人ぶんの「関係ない」という合意を、たった1人の大株主が塗り替えたのです。相関係数の値だけを見ても、それが多数の合意なのか1人の独走なのかは区別できません。
逆のパターンもあります。強い右肩上がりの12個の点(相関係数およそ0.95)から、真ん中の4点だけを切り出すと、相関係数はちょうど0.6まで落ちます。関係そのものは何も変わっていないのに、範囲を狭めると、遠くに座って重い票を持っていた点が投票に参加しなくなるのです。「相関が弱い」という結果を見たときは、関係そのものが弱いのか、それとも見ている範囲が狭いだけなのか、区別が必要です。
8. 票の集計は、誰が動かしたかを記録しない
相関係数が高ければ因果関係がある、というのも半分正しくて半分違います。以下は仮に作った架空の例です。12の町(人口5万人・15万人・25万人が各4つ)で、コンビニの店舗数と事故件数を集めると、全体では相関係数およそ0.98という強い相関に見えます。ところが、同じ人口規模の町だけで見ると、3つの層すべてで相関係数はちょうど0になります。
理由は、票の集計が「誰がその人を動かしたか」を記録しないからです。人口という第三の変数が、コンビニの店舗数にも事故件数にも同じ向きの指示を出していました。人口が多い町はコンビニも多いし事故も多い——ただそれだけの話が、見せかけの相関(擬相関、または交絡)を作っていたのです。この人口の影響ぶんをあらかじめ取り除いてから測り直す道具が偏相関係数で、この例では偏相関係数もちょうど0になります。
偏相関係数にはよくある3つの勘違いがあります。①「非線形の関係も拾える」は誤り——偏相関係数も相関係数の仲間なので、直線という物差ししか持っていない限界は残ります。②「相関係数がプラスなら偏相関係数はマイナスになる」という法則は存在しません。③「相関係数0.9・偏相関係数0.8だから、第三の変数の水準ごとに相関が0.8〜0.9の間で変動する」も誤りです。偏相関係数は「第三の変数の影響を除いたとき」の1つの数字であり、「層ごとに相関がどれだけ変動するか」という意味は持っていません。「除去」と「水準ごとの変動」、この一語の差がひっかけどころです。
質的なデータでも同じ形の罠が出ます。ある講座で、朝グループは合格率60%、夜グループは55%で朝の勝ちに見えますが、学生だけで見ると朝90%・夜95%で夜の勝ち、社会人だけで見ても朝30%・夜45%で夜の勝ちです(仮に作った例です)。夜グループは社会人の割合が8割を占め、社会人はもともと合格率が低い層なので、その比率が全体の数字を引き下げていました。第三の変数(層の構成比)が結果を動かしている点で、擬相関と原因は同じです。
冒頭の3つの問い——なぜ引いて掛けるのか、なぜ相関係数がもう1つ必要なのか、その数字は何を捨てたのか——は、「各点に一票を投じさせて集計する作業(ただし一人一票ではなく、平均から遠い点ほど重い票を持つ)」「単位が残る共分散を、単位をそろえて数え直したのが相関係数」という答えに集約されます。
そしてこの集計は、3つのものを必ず捨てています。直線という物差ししか持っていないので「形」が見えない。重い一票が全体を塗り替えても数字だけでは分からないので「1点の重み」が見えない。誰がその人を動かしたかは票に残らないので「理由」が見えない。1行でまとめると、相関係数は「直線」という物差しを、「そのデータ自身の散らばり」で目盛りを刻んで当てている数字です。直線しか見ないので曲線の形は最初から映らず、目盛りをデータ自身の散らばりで決めているので、どの点を数えるかが変わると目盛りごと変わってしまいます。
冒頭の放物線のデータは、直線という物差ししか持たない相関係数には、最初から映らない形をしていました。だから、10個のばらばらな点とまったく違う中身なのに、同じゼロという数字になったのです。数字だけを見た人には、この2つは区別がつきません。試験が、畳んだあとの数字を渡して計算させるより、散布図そのものを見せて「その数字が何を捨てたか」を確認させてくるのは、そのためです。
